強力な除草剤ジカンバの販売戦略を推し進めるモンサントと周辺農地への被害を訴える科学者たちとの攻防

強力な除草剤「ジカンバ」の販売戦略を推し進めるモンサントと周辺農地への被害を訴える科学者たちとの攻防


化学メーカー「Monsanto Company(モンサント)」は、近年、強力な除草効果で知られる「ジカンバ(Dicamba)」とジカンバ耐性作物種子の販売を強力に推し進めており、日本でも2013年にジカンバ耐性大豆(MON87708系統)の栽培・輸入が安全性認可を受けています。
しかし、ジカンバを巡っては致命的な「欠陥」によって、周辺農地の作物に大きな被害を与えるとして植物学者たちが使用反対の声を出しています。

Monsanto Attacks Scientists After Studies Show Trouble For Weedkiller Dicamba : The Salt : NPR
http://www.npr.org/sections/thesalt/2017/10/26/559733837/monsanto-and-the-weed-scientists-not-a-love-story

モンサントと全米の植物学者との間に緊張関係が生まれたのは、モンサントが「ジカンバ」という古くからある除草剤を全面的に推し進める戦略を採った時点だといわれています。
グリホサート系の強力な除草剤「ラウンドアップ」と、ラウンドアップ耐性を持つ遺伝子組換え品種の種子をセットに販売することで世界的な成功を収めたモンサントでしたが、近年はラウンドアップ耐性を持つ雑草が現れたことや、ラウンドアップ耐性大豆の種子の特許切れなどの問題に直面しており、新たな事業の柱を必要としているという事情があり、そこで登場したのがジカンバ販売促進戦略だというわけです。

ジカンバ自体は古くから知られる除草剤ですが、モンサントはジカンバ耐性を持つ大豆や綿花の種子を遺伝子操作によって開発しました。
強力な除草作用を持ちあらゆる作物を枯らしてしまうジカンバも、遺伝子改変された耐性作物には影響を与えません。
そのため、「ジカンバ+遺伝子改変作物」という組み合わせを用いる農家は雑草を容易に駆除して作物を収穫できることから、そこには大きな需要があり、ジカンバと種子のセット販売というラウンドアップ除草剤と同様の戦略をモンサントは採ろうとしているというわけです。

しかし科学者からはジカンバの特徴である「揮発性」に対して懸念の声が上がっています。
ジカンバは農薬としてスプレー状に散布されますが、揮発性が高いため、夏の高温な時期に散布されると蒸発して風に乗り広範囲に広がってしまい、他の作物に被害をもたらしかねないと考えられています。

このジカンバの持つ大きな「欠陥」を指摘されたモンサントは、容易に蒸発しない「低揮発性ジカンバ」を開発することで問題を解決したと発表していました。
この発表を受けて専門家は真偽を検証をしようとしましたが、モンサントは低揮発性の改良型ジカンバをプロプライエタリ(独占的)製品として取り扱うことで、検証実験ができないようにしたとのこと。
アーカンソー大学のボブ・スコット博士は、「私たちはもっと多くのテストができたはずでした。
何年もの長期的なテストをしたかったのです。
しかし、製品を利用できませんでした」と述べています。


モンサントの低揮発性ジカンバが2016年にアメリカで承認されるとアーカンソー州の2600万エーカーの土地にジカンバ耐性作物が植えられました。
コントロールしづらい雑草の管理を劇的に容易にする新型ジカンバは、農家から圧倒的な支持を受けたと、モンサントのグローバル戦略担当副社長のスコット・バトリッジ氏は述べています。

しかし、ジカンバの散布が始まると、ジカンバが散布された農地の範囲を超えて、周辺の畑の大豆、野菜、果物などの作物に被害が発生しました。
被害はミシシッピ州、ミネソタ州、ミズーリ州、テネシー州などで発生し、アーカンソー州は最悪の部類に入る状況だったとのこと。


被害を訴える農家の声は先例がないほど多かったそうで、アメリカ除草学会・元会長のケビン・ブラッドリー博士は全米中の作物被害に関するデータを収集し、ジカンバの被害発生場所をマッピングしました。
その結果、2017年夏の終わりまでに少なくとも310万エーカーの作物が、漂流してきたジカンバによる何らかの被害を受けたと推計されています。

ジカンバによる被害の訴えに対して、モンサントはジカンバを用いる農家が十分な間隔をあけていなかったり不適当なノズルを使用したりするなど、正しい用法通りにジカンバを用いなかったことが原因だと、製品の問題を否定。
パトリッジ副社長が「すべての問題は、正しい教育によって修正可能です」と述べるとおり、製品に問題はなく、販売を継続する姿勢を崩していません。

しかし、ブラッドリー博士たち植物学者は、モンサント側の説明は原因の一部に過ぎず、問題はそれほど簡単には解決できないと考えています。
モンサントの主張によれば、間違った使用方法によって飛散したジカンバは、風に流されるなどの物理的な移動が原因であり、散布された場所からの距離に反比例するように被害は小さくなるはずですが、ブラッドリー博士たちが収集したデータからは、必ずしもそうなっていないとのこと。

スコット博士の実験では、ジカンバをスプレーとして散布せずに、トレーに入れた状態で大豆を植える土壌の中に48時間おいたところ、トレーから蒸発したジカンバが大豆の葉を傷つけ成長を鈍らせたことがわかっています。


アーカンソー州は、ジカンバが周辺の農場に広範囲にわたって被害を与え得ることから、夏の成長期の間にジカンバの利用を禁止するという法令案を出し、審議中です。
この動きに対してモンサントは、「科学的でない根拠のない理論に基づいて行われる不当な禁止措置である」と主張して、アーカンソー州の規制当局を相手取って訴訟を起こしています。
ブラッドリー博士は、「植物学者たちが何をしているのかを、より多くの農家に認識させることになりました。
そして、これらの研究が公平なものであることを認識させました」と話し、このことがジカンバを巡る論争から得られる唯一、肯定的な結果だと述べています。

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