ガラスは固体? 液体? 新たな定義に挑む研究者たち

割れやすいだけじゃなくいろいろと不安定なやつ、それがガラス。

窓やコップやスマートフォンに使われて、毎日みんなが見たり触ったりしているガラス
でも「ガラス」って何なのかっていうと、何だか歯切れが悪くなります。
「ガラス」という言葉が特定の物質を指すのか、それとも「液体」みたいな状態を表すのか、金属なのか粘土なのか、そのへんもよくわかりません。

ただ米GizmodoのRyan F. Mandelbaum記者によれば、この手のことにちょっと詳しい人は「ガラスとは、液体のように流れる非晶質(アモルファス)固体である」と説明してくれるらしいです。
「ガラスが流れる」ってどういうことかっていうと、大昔に作られたガラス窓は時間とともに溶けたようになり、ガラスの下の方が厚くなってたりするらしいです。
アモルファスとは、Wikipediaによれば、「結晶のような長距離秩序はないが、短距離秩序はある物質の状態」だそうです。
これだけでも目からウロコなんですが、「液体みたいな固体」という定義すら、「ガラス」のすべてを言い尽くしていないと考える人たちがいるようです。

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Photo: Shutterstock

「ガラスは、固体と液体の性質を併せ持っています」論文著者でペンシルバニア州立大学のJohn Mauro氏は米Gizmodoに語りました。
Mauro氏は、歴代のiPhoneをはじめさまざまなデバイスで使われてきたゴリラガラスを発明した人物です。
いわく、「我々は、その(固体と液体)両方の性質を正確に捉えるべく、ガラスの新たな定義を提案したのです。

Mauro氏、そしてブラジルのサンカルロ大学のEdgar Zanotto氏が最近「Journal of Non-Crystalline Solids」で発表した論文の中では、ガラスは次のように定義されています。
「ガラスとは物質の非平衡・非結晶の状態で、短期的には固体のように見えるが、継続的にゆるんで液体になろうとするものである。
」もっと難しい言葉では、こんな風にも書かれています。
「ガラスとは物質の非平衡、非結晶な濃縮された状態で、ガラス転移を示すものである。
ガラスの構造は、その元となる過冷却液体(SCL)と似ており、それは自発的にゆるんでSCL状態をとろうとする。
その最終的な結末は固体化、すなわち結晶化である。
」「ガラス転移」というのは液体を冷却していったときに固体化せず「過冷却液体」になったものをさらに冷やしたときに起こる状態のこと、だそうです。

ガラスが何者かよくわからないのは、基本的に固体のように見えているにもかかわらず、つねに「ゆるんで」過冷却液体の状態になろうとする、こらえ性のないやつだからです。
過冷却液体とは、凝固点以下に冷却されているんだけれど、結晶状に配置されていない液体のことです。
そのため、ガラスとは過冷却液体だと考える研究者もいます。
ただ、ガラスが柔らかくなり、元々の性質が変化する温度、「ガラス転移点」なるものの定義も曖昧です。
ガラスはまた、同じ温度では過冷却液体よりも多くのエネルギーを内蔵しているという違いがあります。

ガラスと他の非晶質固体の大きな違いは、このガラス転移点の存在です。
ガラスはこの温度でガラスから過冷却液体へとはっきり変わりますが、他の非晶質固体はそうじゃないのです。

たとえて言うと、劇場の座席に、人間がランダムに座っているとします。
そこにいる全員が、座席の位置に関係なく近くにいる人と手をつないだもの、それがガラスなんです。
でもそれだとごちゃごちゃになるので、本当は隣に座っている人の手をつなぐように決めた方がすっきりするはずです。
誰かが部屋の温度を上げ始めて、暑くなったらそれぞれがつないでいた手を離して、もっと快適な相手と手をつないでいいと指示されます。
ガラス転移点とは、このようにみんなが手を離して別の人と手をつなぎ出す温度のことです。
そしてこの状態が、過冷却液体です。
この転移点に達するまでの時間を、ガラス転移時間と呼びます。
そしてどの場合でも、最終的には全員が隣の人の手をつなぐ、つまり固体が結晶化する、と考えられています。

Mauro氏らの定義はこうした現象をすべて捉えようとしていて、従来の定義ではそれができていなかったとしています。
ミズーリ工科大学のRichard Brow氏はこの論文を高く評価し、科学的にも問題ないとしつつ、Mauro氏らは、ガラスをやや液体寄りに考えすぎたきらいがある、と指摘しています。
ガラスは流れているといっても、その流れ方はものすごくゆっくりです。
古い教会の窓ガラスの下の方が厚いのは、ガラスが窓枠にはまった時点からそうなってたんだそうです。
Brow氏によれば、ガラスが数ナノメートル動くだけでも何十億年もかかります。
要は簡単に定義できないことは存在し、ガラスはそのひとつだということです。
Brow氏いわく「定義するだけで4ページもかかるのでなければ、誤解を招きます。
私がやってきたのは、そういうことです。

というわけで、「ガラス」の新しい定義が提案されたんですが、ガラスについてはまだまだわかっていないことがたくさんあるようです。
そこには高校の化学の教科書くらいじゃ捉えきれないような複雑なふるまいがあって、ガラス研究者の議論はとどまることがありません。

といってもそれは、わからないからこそ楽しいっていう種類のことなのかもしれません。
「この論文は、研究者コミュニティの中で議論を巻き起こしました」とMauro氏は語っています。
「みんな、議論の機会を喜んでいるんです。

Source: Journal of Non-Crystalline Solids
Ryan F. Mandelbaum – Gizmodo US[原文]

(福田ミホ)

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