日本語ラップブームをよそに40年後の未来に旗を立てた怪作 PUNPEE待望の1st『MODERN TIMES』インタビュー

00年代初頭より音楽活動を開始し、2009年に3人組ヒップホップユニットPSGとしてアルバム『David』をリリースし大きな話題に。
それ以来トラックメーカーやプロデューサー、リミキサー、ラッパーとしてジャンルやメディアを超えた活躍を見せてきたPUNPEE

2016年には国内初の3DVR配信番組、宇多田ヒカル「30代はほどほど。
」にDJとして出演した他、宇多田ヒカル『光 -Ray of Hope MIX-』のオフィシャルRemixを手がけるなど、その活躍の場は広くポップフィールドにまで拡大しています。

そんな絶好のタイミングである2017年11月、PUNPEEとしての待望のデビューアルバム『MODERN TIMES』をついにリリース。
驚きの幕開けとエンディングを始め、早くも話題沸騰の同作についてPUNPEEにインタビューを行ないました。

宇多田ヒカル、加山雄三との仕事が大きな「きっかけ」

──待望のファーストアルバムとなりましたが、アルバムを作るきっかけはどこにあったのでしょうか?

作りたいと思ったのは去年の年末ごろからですね。
昨年から宇多田さんや加山雄三さん、フジロック出演といった大きな仕事が入っていたんですけど、それがきっかけだと思います。

──他の人と仕事をすることがきっかけとなったのでしょうか?

そうですね。
他の人とやるのは楽しいんですけど、自分自身の心境とかテンションとはやっぱりちょっと違うところでの仕事になるじゃないですか。
自分の中では大きな人たちだったし、とりあえず誰かとやるのはもういいかなって。
それで 、自分のやりたいことをやりたいと思うようになりました。

──それ以前にはアルバムを作りたいという思いはあまりなかったのでしょうか?

歌いたいことは少しずつ蓄積されていました。
でもどういう形で出すのかは自分の中でハッキリしていなくて、そこで悩んでいた部分はあったのかもしれないですね。
一枚目だからと言って「PUNPEEがとうとうやってきたぜ! こっからシーンを変えるぜ!」みたいな感じだと 普通だしつまんないじゃないですか。
だから、イントロである『2057』のアイデアが浮かんでからは、まさに突破口という感じで、すんなり作ることができましたね。

──『2057』は衝撃的な始まりですよね。

「誰?」みたいな感じですよね(笑)

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Photo: Victor Nomoto – Metacraft

──すべてが過去となっているという点で、若干後ろ向きなモードなのかとも邪推したのですが、いかがですか?

いや、どっちかというとここまで皆を待たせてしまったし「クラシックっぽいのが求められてるくさい!!!!」という感じがあって少し焦ってて。
そこで「未来の俺にこのアルバムを”クラシック”と言ってもらえばクラシックになるんじゃね?」と、未来の自分と一時的に手を組んだみたいな感じですね。

──そしてオープニング曲的な『Lovely Man』では「別に俺なんかいなくてもね KOHH君, tofubeats, 弟とかがいる!!! そんじゃ二度寝 」という自虐ネタが飛び出すという。

こういうところから歌い始めちゃうほうが自分っぽいなと思ってやりました。
でも、実際にあれくらいの心境だったのは確かですね。
自分がやらなくてもかっこいいことやってる人たちはいるし、このまま裏方に回ってもいいのかなという気もしていたんです。
布団にくるまって「またあいつかっこいい作品出しやがって。
いいよ、俺はエンジニアになって細々と暮らすからさ…」っていう(笑)

──同曲では宇多田さんと共演した後の日々について「実はあのヒッキーと共演した日を機に 生きる気が死んだのだ」と歌われていて、結構シリアスな部分があるのかなと感じたのですが。

いえ、これはそこまでシリアスではないですね。
中学くらいからずっと見てきた人と同じ場所に立って「夢が叶っちゃった」みたいな部分があって腑抜けになった時期があったんです。
映画を観ては酒を飲んでの繰り返しみたいな感じでした。
生きる気力がなくなったというよりは、ちょっと安心しちゃったみたいな感じでしたね。

「暇」と「想像力」が人間の大きな原動力である

──続く『Happy Meal』では、アルバムタイトル『モダン・タイムス』(チャップリンの同名映画からの引用)とも通じる、大量消費やカルチャーの記号が次々と飛び出します。
この曲からは、ジャンプ黄金期やCDが売れていた時代のような「共通体験としてのポップカルチャー」の多くが失われてしまったという感覚と、気持ちの持ちようによってはまだ続いていると考えることもできるという「希望」がごちゃ混ぜになったような印象を受けました。

この曲に関しては、そういうイメージではなく、単純に自分の好きなものって感じですね。
自分の中には90年代のオルタナティヴとか若者のカルチャーが根底にあって、それをこのタイミングで全部言っちゃいたいなと思ってとにかく連ねていきました。
誰もラップで言ってなかったであろうことも含めて。

──その心は? 『Lovely Man』に続く自己紹介なのでしょうか?

途中で“夕日に魅せられた暇な猿”というフレーズが出てくるんですけど、俺は人間が猿から突然変異した経緯って「暇」から始まったと思うんです。
狩猟やご飯を食べるだけじゃなく、ある時夕日を見てたら「綺麗じゃん、なんでみんな気づかないで狩りばっかしてんの?」みたいな。
現代の俺たちにも楽しいことがある一方、つまらないことや面倒くさいこともいっぱいあるじゃないですか。
でも、気の持ちようで少しは視界を楽しくできる。
単純明快に言えば『2001年宇宙の旅』のモノリス的な曲ですね。

──そして次の『宇宙に行く』はストレートな歌モノで驚きました。

最初からこの辺までは暴走ゾーンかもしれないですね。
好き勝手やっちゃってる感じです(笑)

──脱出願望のようなものがあるのでしょうか?

正直、生きていて面倒臭いと感じることが最近目立つようになっていて。
例えばTwitterで何か言っただけですぐ炎上したり、ニュースは芸能人のスキャンダルであふれていたり。
セカンドチャンスを作るのも難しい時代になってきているなと。
しかも、それは有名人だけじゃなくて、一般の人も同じ。
そして人種差別の問題なんかも目立ってきている。

俺はそこまで政治的な人間じゃないですけど「なんかもう宇宙行きたいな」と思ったんです。
宇宙には夢の世界があるかもしれないのに、地球だけで揉めてどうするんだと。
そういうところから自然と出てきた曲ですね。

──でも、宇宙に行った先で自分には帰る場所がないことに気がつくという。

そして『Renaissance』に繋がって創っていくっていう。
ここは映画『インターステラー』みたいに物理世界から変な次元に行って、結局自分に戻るっていう。
自分から遠ざかって地球を見て、銀河系を見て、宇宙を見てと遠ざかって行った結果自分の頭皮に戻るみたいな感じですね。

Video: Harvie/YouTube

──宇宙に行った結果、想うことが「家族みなでいった 寿司屋」というのが凄まじくセンチメンタルだと感じたのですが。

あんまり深い意味はないんですけどね。
最後に宇宙空間を漂って、自分自身が宇宙になるしかなくなる。
でも思い出すのは家族と行った寿司屋だったり、商店街の夕焼けチャイムだったりする。
そこから宇宙につながるノスタルジーみたいな感じですね。

──窮屈な現実から脱しようと宇宙に行くけど、そこに思い描いた世界はなく宇宙を漂うことになる。
そして帰る場所もない。
そうした状況から、イマジネーションやクリエイションを歌う『Renaissance』に繋がる。
ここまでの楽曲の流れは「自分自身で自分のための聖域を作るしかない」と気付くまでのストーリーのようにも感じました。

もちろん歌っているのは自分から出ている言葉ではあるんですけど、正直このアルバムを作って行く中で、PUNPEEというキャラを作って作品の中に置いている感じになった部分もありましたね。
俳優じゃないですけど、演じているような感じ。
途中で発狂してみせたり、言っちゃいけないような暴力的なことを言ってみたり、女の子と遊びたいと言ってみたり。
今後もどうなるか分からないですけど、キャラクターとしてPUNPEEを置いていくのは面白いなと感じましたね。

グラント・モリソンというアメコミ作家さんも、特殊なスーツを着るとアメコミの中に入れるという設定を作って、自分の作品の中に自分を登場させたりするんですよ。
ちょうどそういう作品を読んでいたりしたこともあって、SFモードで作った部分はありましたね。

アルバムの発売延期、その理由とは

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Photo: Victor Nomoto – Metacraft

──そうしたSFモードのほか、アルバム全体を通して受けた印象として「センチメンタル」というものがあったのですが、いかがでしょうか?

そうですか? 『Oldies』の印象が強いんじゃないですかね?

──先ほどの「家族みなでいった 寿司屋」もそうですが、象徴的なのは『タイムマシーンにのって』と言う曲ですよね。
正直、全てひっくるめて「過去に戻りたい後悔があるのかな?」と思いました。

あー、それはありますね。
まあ、でも誰しもがそういう後悔はあると思いますし…。

──そうですね。
あると思います。

…その後悔についてはパーソナルな話なので、もうちょっと経ったら話そうと思います。

──あ、すみません…。

いえいえ!

──ちなみに本作は一度発売延期されましたが、それは具体的にどこに理由があったのでしょうか?

最後にネックになっていた曲があったんです。
それは「こんな感じでやる気なく歌ってるけど、ここから俺は頑張るぞ」みたいな感じの曲だったのですが、その曲のリリックが上手くいかなくて。
「もっと俺っぽい曲あるはずだ」と思ったところで『タイムマシーンにのって』のトラックを見つけて、延期させて欲しいと頼み込んだんです。

だから発売延期に関しては自分のわがままですね。
いつも後になって後悔する自分とか、それでもなんか明るい気持ちになってやるしかない感じとかは、こっちのほうが自分らしいなと思えたので、やはり延期して良かったなと思いましたね。

40年後の未来に打ち立てた旗、そして無限の可能性

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Photo: Victor Nomoto – Metacraft

──作り始めるまでもかなり苦労されたと思うんですけど、実際に作ってみて自分のオリジナルアルバムは他の仕事とは違いましたか?

違いましたね。
PSGの時はノリとグルーヴがあれば面白いかなと思っていたんですけど、いろんな人とやるうちにメッセージ性とかアルバム全体の流れとかを意識するようになったのかもしれません。
だから繰り返しになりますが『2057』のアイデアが本当に突破口でしたね。
でも、今回いい感じでできたんで、次からはもっと自由にできるかなと思っている部分もあります。

──そうして完成した本作『MODERN TIMES』は作中で予言されたように、まさしくクラシックと言える作品だと感じました。

うーん、クラシックかはみんなが決めますが自分のやりたいことはできたと思います。
悔いはないですね。
悔いがないのもどうかと思うんですけど、やることはできたなと。
延期させてもらったのも手伝って(笑)

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──アートワークについても教えていただけますか?

表ジャケだけでなく、デジパックを開くと絵が繋がるんですけど、裏も楽しんでほしいですね。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やサイモン・ペッグの作品、『アベンジャーズ』なんかのイラストを公式で担当しているイギリス人のサム・ギルビーよる作品です。
SUMMITの増田さんが駄目元で連絡したら返事が返ってきて、「こういう作品が作りたい」とアルバムのコンセプトを英語で伝えたところ、描いてもらえることになったんです。

ちなみに散りばめるものは自分が指定しました。
レッドブルのようなものとか、亀を25年くらい飼っていて、弟は亀のタトゥーを入れているくらいなのに今まで作品に登場させていなかったので、初めて出しました。
あとはレコードとPSGと、赤いワーゲンに乗っているので、それをSF仕様にしたり。
それと「食べ物がねえな」と思ってハンバーガーを。

ブックレットのイラストはTsuneさんという方に描いてもらっているんですけど、デザインも含めてかなりこだわったのでぜひ手にとって見て欲しいです。

──『Oldies』のアウトロではPUNPEEさんはキャリアを通して3枚のアルバムを出したということになりましたね。

最初は4枚だったんですけど、書き直して3枚にしました(笑)

──トリロジー的な感じで(笑)

そういうのになるかなーと(笑) 出せたらいいですね。

──逆に3枚しか出さないというところに、アルバムを作る大変さが滲み出ているなとも感じました。

ずっとやり続けてもしょうがないと思っていて、自分が若く動けるときに3枚作るのが理想ですね。
あとは1曲すげーバカ売れして、山小屋に籠って、そこにインタビュアーさんが聞きにくる。
そういうのが理想ですね 。

──結果的に昨今叫ばれている日本語ラップブームとは無縁の作品になったようにも感じますが、その辺はいかがでしょうか?

実は、始めはちょっと意識していました。
最初に作った曲がシーンにいろいろ言っているような曲だったんです。
結局入らなかったんですけど、トラップが流行ってることとかフリースタイルブームについて少し言及してました。
でも、大事なのはそれよりも自分の音楽を聴いてくれている人だなと感じて。
だから結果的には割とシーンを意識していない作品になりましたね。

──今日はありがとうございました。
40年先の未来をこのアルバムで規定したということも含め、今後がとても楽しみです。

50歳までには3枚作りたいですね。
そこからエンジニアになって隠居生活して、よく分からないレーベルにベスト盤出されてヘコむっていう感じで(笑) でも、実はあと1枚作っていたとか、これからいくらでもできますからね。
もし2057年に生きていたらパーティーもできるし。

──未来を定めたが故のサプライズもある、と。

2058年に4枚目の新作を出すとか、この後も新しい考えを膨らませることができると思っています。

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Photo: Victor Nomoto – Metacraft

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