P&Gのマーケティング組織が持つ2つの強み

 世界最大手の生活用品メーカーのひとつであるP&Gは、世界最大のマーケティング・カンパニーとしても高い評価を受けている。
日本国内だけでも「アリエール」「ボールド」「パンテーン」「ファブリーズ」「SK-II」「ジレット」「ブラウン」「パンパース」など数え切れないほどのブランドを展開し、いずれも国内市場で各カテゴリを代表するトップブランドに成長している。

 P&Gのマーケティング組織の強みとは何か。
その答えは驚くほどシンプルなものだった。
8月30日に開催された「ジェルボール3D」製品発表会に合わせて来日した、プロクター・アンド・ギャンブル・インターナショナル・オペレーションズでファブリックケア製品のアジア地域担当ブランドディレクターを務める木葉慎介氏に話を聞いた。


P&Gでファブリックケア製品のアジア地域担当ブランドディレクターを務める木葉慎介氏

 1つ目の強みは、徹底した顧客指向だ。
これはP&Gが長い歴史の中で貫いてきた「Consumer is Boss (消費者こそが私たちのボス)」というビジネス理念でも表現されている。
消費者のインサイト分析と市場理解を徹底してマーケットニーズに合わせた製品を開発し、消費者の潜在的ニーズに訴えるマーケティング施策を展開する。
当たり前のように聞こえるこの姿勢を徹底的に追求することで、消費者の支持を獲得し、市場を開拓してきたのだ。
こうした姿勢は、ブランドにとって最も重要なメッセージングを例にとっても明らかだ。

 今回発表された洗濯用液体洗剤の新製品「アリエール ジェルボール3D」「ボールド ジェルボール3D」は、約8年の開発期間をかけて開発したミクソロジーフィルムという特殊フィルムによって、従来のジェルボールを3層立体構造へと進化させたという。
そしてその3層に、従来の液体洗剤では効果を打ち消し合うために混合できなかった有効成分を入れることで、洗濯槽投入時=ジェルボールが溶けた瞬間にすべての成分が混ざり、従来の液体洗剤では実現しなかった効果を生み出すという仕組みを開発している。

 ただ、ここまでの説明をブランド・マーケティングの中でつまびらかに表現し、ブランドに接触した消費者に短い情報接触時間の中で理解してもらうことは決して簡単ではない。
そこで同社では、こういった製品のもつ付加価値を「洗剤は、鮮度で選ぶ時代へ」というシンプルなブランドメッセージに込めた。
製品を洗濯槽に投入して使う瞬間に液体洗剤を完成させて効果を最大化させるという消費者にとって最も大きなメリットを、シンプルに表現したのだ。

 この点について、木葉氏は消費者の情報消費の傾向を踏まえた判断だという認識を示し、次のように語っている。
「これだけいろいろなブランド、商品、広告が消費者の周りに溢れるなか、複雑なメッセージを訴求して支持を得ていくのは非常に難しい。
シンプルな言葉、わかりやすいアイデアで消費者に理解してもらうことを強く意識している」(木葉氏)。
これは、P&Gが展開する他のブランドのメッセージでも同様に感じる姿勢で、ブランドが一方的に言いたいことを発信するのではなく、あくまでも受け取る消費者にとって最適な情報の伝え方を考えることを重視しているのだ。


製品の特長を「鮮度」というメッセージで紹介したP&G日本法人社長のスタニスラブ・ベセラ氏

 加えて、こうした顧客志向の姿勢は、ブランド・マーケティングにとって最も重要な「チャネル戦略」についての話からも伝わってくる。
特に、デジタルメディアの活用について木葉氏は「ジェルボール3Dのターゲットである多忙な女性にとって、情報収集手段としてのデジタルメディアの重要度はどんどん高まっている。
こうした消費者の行動変化に合わせてマーケティング施策は常に変化させるようにしており、その流れのなかでデジタルメディアが果たす役割はどんどん大きくなっている」と語る。
デジタルメディアへの接触は、もはやリアルな消費生活の大きな部分を占めており、リアルとデジタルの区別は消費者のなかには存在しない。
そうしたシームレス性を理解したマーケティングが必要になるというのだ。

 「オンラインからオフライン(O2O)の流れだけでなく、オフラインtoオンライン、オフラインtoオンラインtoオフライン(店頭で商品に接触し、ネットで詳細や口コミをチェック、そして最終的に店頭で商品を購入する)というカスタマージャーニーをも意識しなければならない。
オンライン、オフラインという区別をするのではなく、デジタルが消費生活の一部であるという前提で、シームレスなブランド体験を設計していく必要がある」(木葉氏)。

 ちなみに、最近ではAmazonなど主要なショッピングモールや量販店のネットスーパーなどを通じて、生活用品を気軽に購入できるようになってきている。
また、足りなくなってきた生活用品をボタンひとつで注文できるAmazonの「ダッシュボタン」も参入ブランドが徐々に増えてきている。
日本における生活用品のEコマースはまだ過渡期といえる状況だが、今後の消費行動の多様化について木葉氏は、「日本でEコマースのマーケットサイズが大きくなればもちろん対応していく。
チャネルごとの販売比率は国によって全く違い、他の国・地域ではすでにEコマースが拡大しているケースもある。
日本における消費行動の変化にも十分に対応できるはずだ」と語っている。

 この木葉氏の言葉からわかるのが、P&Gのマーケティングにおけるもう1つの強さである「ダイバーシティ(多様性)」だ。
ご存知の通り、P&Gは世界各国でビジネスを展開し、木葉氏自身もアジア各国のブランド・マーケティングを担当している。
そこには、さまざまな国・地域のデータや事例が集まり、国籍や人種を超えたスタッフの集まりによってマーケティングのアイデアが議論される。
そこから生まれるシナジーが、P&Gの力強いマーケティングへとつながっているのだ。

 「“日本の消費者にベストな価値を提供する”というマーケティングのゴールは変わらない。
しかし、そのゴールに向かって、日本市場の地域性や特色を多様な価値観を持った人々で検証し、新しいアイデアやイノベーションを生み出す。
多様性を持ったチームだからこそ、それぞれ自国のことでは気付きにくい視点を他国のメンバーが気付き、より良いマーケティングを実現することができる。
これがP&Gのマーケティング組織の強みだ」(木葉氏)。

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